働き方の選択2026-07-28監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

週20時間未満勤務は障害者雇用でキャリアになるか|制度と実務

この記事の要点

「週20時間なんて、キャリアのうちに入るんでしょうか」。先日、就労移行支援の説明会でお会いした方から、そう聞かれました。

結論から言うと、僕は「入る」と考えています。ただし、それは短時間勤務そのものにキャリア性が備わっているという意味ではありません。短時間勤務を「体調と両立しながら実績を積むための土台」として使えた人だけが、結果的にキャリアにできている、というのが実態に近いと思います。今日は2024年の制度変更を踏まえながら、週20時間未満勤務の位置づけと、それをキャリアに変えるための実務、そしてよくある失敗のパターンまで整理していきます。

1. なぜ今、週20時間未満勤務が選択肢として広がっているのか

まず制度の話から入ります。厚生労働省の資料によれば、2024年4月の制度改正により、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の勤務についても、重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者に限り、企業の実雇用率の算定対象に加えられるようになりました。カウントは0.5人分が目安です。それまでは週20時間が雇用率算定の最低ラインで、それ未満の勤務は企業側の「雇用率メリット」にならないため、求人自体が少ない状態が続いていました。

この変更で、体調の波が大きい方や、通院・服薬の管理に時間が必要な方でも、企業側が「短時間なら採用してカウントできる」と判断しやすくなりました。僕の体感値で言うと、この制度改正以降、精神障害・発達障害のある方向けの週15〜20時間の求人が、以前よりも目にする機会が増えている印象があります。加えて、2026年7月には法定雇用率が2.7%まで引き上げられる予定で、企業側は「フルタイムで採用できる人材が見つからないなら、短時間でも雇用率に貢献してくれる人材を確保したい」という発想を強めていく可能性があると僕は見ています。ただし対象者が重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者に限定されている点は誤解しないでいただきたいところです。すべての障害種別・すべての方が対象になるわけではなく、身体障害の中でも重度に該当しない方は、この0.5カウントの対象にはなりません。

2. フルタイムと短時間勤務、何がどう違うのか

制度上の違いを整理すると、以下のようになります。数字はいずれも目安であり、企業ごとの就業規則や個別の契約内容によって変わる前提で見てください。

区分雇用率カウント社会保険加入の目安賞与・昇給
フルタイム(週30時間以上)1人分(重度は2人分)要件を満たせば加入対象制度対象になりやすい
短時間(週20〜30時間未満)0.5人分企業規模・賃金要件次第制度があっても按分が多い
新区分(週10〜20時間未満)0.5人分(対象者限定)対象外になるケースが多い制度対象外の企業が多い

ここで見落としがちなのが社会保険です。週20時間未満だと、社会保険の加入要件(企業規模・週の労働時間・月額賃金など)を満たさず、加入対象外になるケースが多くあります。将来的な傷病手当金や厚生年金の積み上げを考えると、これは体調管理と同じくらい実務上重要な論点です。契約前に「この働き方で社会保険に入れるかどうか」を人事に具体的な数字で確認することを、僕は強くおすすめしています。また、有給休暇についても週の所定労働時間・所定労働日数に応じて付与日数が比例付与になるケースがほとんどで、フルタイムと同じ日数を期待していると入社後にギャップを感じやすい部分です。賞与や昇給の制度が「フルタイム前提」で作られている会社も少なくないため、短時間勤務者にどこまで制度が適用されるかも、入社前に確認しておきたいポイントです。

3. 時間を延ばせた人と延ばさなかった人、何が違ったのか

ここからは、僕がこれまでの支援の現場で見てきた事例を、特定の個人が分からない形に構成し直してお伝えします。ある方は、精神障害の診断を受けてから、週15時間の在宅事務からキャリアを再開しました。最初の3か月は「まず生活リズムを崩さないこと」だけを目標に、業務量も最小限に抑えていました。4か月目以降、体調記録(睡眠時間・通院頻度・疲労度を簡単なメモで記録したもの)を月1回、上司との面談で共有するようにし、半年経った時点で「この3か月は安定していたので、週18時間に増やせないか」と自分から相談しました。

一方で別の方は、同じように週15時間から始めたものの、「体調が良くなったら自然と時間が増えるはず」と考え、特に記録も共有もしないまま1年が経過しました。結果として、会社側からは「特に変化の申し出がないので、今の契約のままで問題ないという理解でいた」と言われてしまいました。ここに悪意はなく、単に会社側には「本人から見えている体調の変化」が伝わっていなかっただけです。

もう一つ、僕が印象に残っているケースがあります。ある方は本人の体調は安定していたものの、家族が「無理をして体調を崩したら元も子もない」と延長に強く反対し、結局1年以上同じ時間のまま働き続けました。この方の場合、上司への相談以前に、家族との間で「延長する場合の判断基準(何を確認したら試してよいか)」をすり合わせられていなかったことが、時間が動かなかった一番の要因だったと振り返っておられました。この3つのケースを分けたのは、体調そのものの重さではなく、「変化を数字と記録で伝えるプロセスを、会社にも身近な人にも自分から作れたかどうか」だったと僕は考えています。短時間勤務は、待っていれば延長されるものではなく、延長の材料を自分で用意して初めて選択肢になるものだと思っています。

4. 短時間勤務をキャリアにする実務ステップ

ここまでを踏まえて、短時間勤務を「つなぎ」ではなく「積み上げ」にするための実務を、所要時間の目安つきで整理します。

4-1. 体調記録は「本人の感覚」ではなく「会社に見える形」で残す(記入は毎日3分程度)

睡眠時間・通院回数・当日の業務への影響度合いなどを、簡単な表やメモで残します。1日あたり3分程度で構いません。これを月末にまとめる作業に15分ほどかければ、上司や人事に「客観的な変化」として説明できる材料になります。感覚だけで「最近調子がいいです」と伝えるより、記録を添えた方が延長の相談は通りやすい、というのが僕の体感値です。

4-2. 業務量の「棚卸し」を半年に1回行う(所要30分の面談を設定)

短時間勤務だと、任される業務が固定化されやすい傾向があります。半年に1回、30分程度の面談時間をあらかじめ確保し、今任されている業務を書き出して、「増やせそうな業務」「時間がかかりすぎている業務」を上司と一緒に整理します。これは時間延長の交渉材料になるだけでなく、業務範囲が固定化することで評価が頭打ちになるリスクを避ける意味もあります。

4-3. 社会保険と収入のシミュレーションを先に済ませておく

時間を延ばす相談をする前に、「週20時間を超えたら社会保険料の負担がどう変わるか」「手取りはどう変化するか」を、可能であれば人事や社会保険労務士に確認しておくと安心です。時間を延ばした結果、手取りが想定より減って驚いた、という声も現場では聞きます。延長は「良いこと」として一律に扱うのではなく、収入と保障の両面で確認してから判断することが大切だと考えています。

4-4. 延長の打診は「期間・数字・条件」をセットで伝える

「そろそろ時間を増やしたいです」という曖昧な伝え方よりも、「直近3か月の体調記録では大きな崩れがなかったので、来月から週2時間だけ増やす形で試してみたいです」というように、期間・数字・条件をセットで伝えることをおすすめします。会社側も、曖昧な希望より具体的な提案の方が検討しやすく、結果として話が前に進みやすいというのが、僕がこれまで見てきた実感です。

4-5. 一度断られても「条件」を確認してから再提案する

延長の打診をした結果、すぐには通らないこともあります。そこで諦めてしまう方もいますが、「今回は難しいとのことですが、どういう状態になれば再検討いただけますか」と、断られた理由と再提案の条件を具体的に聞いておくことをおすすめします。契約更新のタイミング(多くは半年〜1年ごと)に合わせて打診し直すと、会社側も人員体制を見直すタイミングと重なりやすく、話が進みやすいというのが僕の体感です。

5. よくある失敗とその対処

短時間勤務をめぐる相談の中で、僕がよく耳にする失敗パターンが3つあります。1つ目は「体調が良い時にまとめて延長を申し出て、直後に体調を崩す」というケースです。調子の良い数週間だけを根拠に一気に時間を増やしてしまい、かえって負荷が跳ね上がって元の時間に戻す、という流れは珍しくありません。対処としては、延長は一気に週30時間まで戻すのではなく、週2〜3時間刻みで様子を見ながら進める方が、結果的に安定しやすいと感じています。

2つ目は「短時間勤務であることを理由に、評価面談そのものを省略されてしまう」というケースです。フルタイム社員には毎期ある評価面談が、短時間勤務者には「時間が短いから簡易でいいだろう」と省かれてしまうことがあります。これは本人が悪いわけではなく、会社側の運用の抜け漏れであることが多いので、面談がない場合は「評価面談の機会をいただけますか」と自分から人事や上司に依頼してよい場面だと僕は考えています。

3つ目は「延長の相談を、忙しい時期・人事異動の直後など、会社側が受け止めにくいタイミングに切り出してしまう」というケースです。内容そのものが妥当でも、タイミングが悪いと後回しにされやすくなります。決算期や繁忙期を避け、契約更新の1〜2か月前など、会社側が体制を検討しやすい時期を選んで打診することを、僕はおすすめしています。

6.(結論)短時間勤務は「体調に合わせて選ぶ働き方」であり「終わり」ではない

週20時間未満の勤務は、フルタイムに比べて社内での評価制度や社会保険の面で不利になりやすい部分があるのは事実です。ですが、2024年の制度改正によって企業側の受け入れ体制も少しずつ広がってきています。短時間勤務を選ぶこと自体は、キャリアを諦めることでも、後退することでもありません。体調記録と業務の棚卸しを重ね、延長の打診を数字と条件でできた人が、結果的にキャリアを積み上げているというのが、僕がこれまで見てきた実感です。皆さんいかがでしたでしょうか。まずは今の勤務時間で、体調記録を1か月分だけつけてみることから始めてみてください。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 週20時間未満の勤務でも障害者雇用として認められますか?

はい、雇用契約自体は成立します。2024年4月施行の制度改正により、重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者に限り、週10時間以上20時間未満の勤務も企業の実雇用率算定に0.5人分カウントされるようになりました(厚生労働省資料より)。ただし対象者の範囲が限定されている点と、企業側の受け入れ体制がまだ発展途上である点は理解しておく必要があります。

Q. 短時間勤務だと社会保険に入れませんか?

労働時間と企業規模によります。従業員数が一定規模以上の企業では、週の所定労働時間が20時間以上かつ月額賃金等の要件を満たせば社会保険の加入対象になりますが、週20時間未満の場合は対象外になるケースが多いです。契約前に人事に社会保険の加入条件を具体的に確認することをおすすめします。

Q. 短時間勤務からフルタイムに移行するのは難しいですか?

体感値としては、最初から曖昧に「そのうち増やしたい」と伝えるより、半年〜1年単位で体調記録と業務量の実績を積み上げ、上司に具体的な数字で相談したケースの方が延長が実現しやすい傾向にあります。制度上の障壁というより、社内での信頼構築のプロセスに近いと僕は考えています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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